IYO DENTAL ASSOCIATION

「口から食べたい」講演会はいかにして立ち上げられたか

 
 平成7年4月伊予郡松前町で医療・保健・福祉の実務者レベルの連携を図るために介護ネットワーク「ケアネット21」が自発的に立ち上がりました。歯科医師の升田もメンバーとして招請され、阪神淡路大震災の歯科医療ボランティア活動"入れ歯救急隊"の報告を行う機会を得ました。阪神淡路大震災での避難所等での障害者・高齢者問題は、実は普段の福祉ネットワークの強靭さが試されたのでした。避難生活でのコミュニティーでの人間関係や、福祉の実効性が試されたのでした。日本の障害者・高齢者福祉の脆弱さを図らずも露呈した縮図であったと言えるでしょう。つまり、行政による従来の縦のネットワークは機能しなかったということです。これを機に、縦のネットワークから市民レベルの連携による横のネットワークへとシフトしていく大きなうねりが始まったと言っても過言ではないでしょう。

 私たちの行った医療ボランティア活動でも、そのことを痛いほど教えられたのでした。つまり、コミュニティーを無視して介入する上からの呼びかけには、真のニーズは浮かび上がってこないということ。きめ細かいお互い同士の信頼に基づく、痒いところに手の届く横のネットワークこそが本当の需要を掘り起こすきっかけになるし、活動が実効性の高いものになるのだということです。

 私のふるさと松前町でも互いの信頼関係に基づいた官民一体の介護ネットワークの構築が求められたのでした。この自発的に立ち上がった「ケアネット21」は、官民を問わず、また町内外を問わず、自由に誰でもが参加できるボランティア的ネットワークです。こうした多職種が属する介護ネットで歯科医師の自分は、まず、歯科医師と医師との連携をいかにすれば取り得るかということを模索することになったのです。

 「ケアネット21」で"入れ歯救急隊"の2月半ばから3月末までの一ヵ月半に渡る活動 を報告した私は、地元社会福祉協議会のヘルパーなどの要望により、在宅歯科訪問診療を始めたのですが、その診療活動のなかで、医師会と歯科医師が今後解決して行かねばならない共通項として、摂食・嚥下障害があることに気が付きました。つまり、医科・歯科が連携するためのキーワードを「摂食・嚥下障害」に見い出したわけです。

 私たちは、高齢化に伴い、図らずも脳血管障害や神経難病、老化等で、大なり小なり口から食べにくくなる「摂食・嚥下障害」を経験せざるを得ない頻度が増してきています。人間の原初の生きるための活動であり、ある意味では生きる喜びそのものとも言える「口から食べる」ことを支援することが、これからの医療においても、介護・看護においても大きな共通の目標となることでしょう。

 その方法論の主要な武器として「口腔ケア」「口腔リハビリ」が上げられますが、単に局所のケアに留まらず、やはり全身をいかにして立ち上げるかが、ここでも求められてくるのです。そうして、患者さんや要介護者の「口から食べたい」という切実な思いに、多職種が連携してどう答えられるかが今後の私たちの最大の課題なのです。

 それを模索し、実践的なテクニックから、介護全般に渡るグローバルな哲学までを視野に入れた、いわば『人間復活』をいかに支援するかを医療・保健・福祉に関わる皆で、また介護・看護されている家族も交えて、互いに勉強し、意識を啓発して行く場が、「口から食べたい」セミナーなのです。

 こうして、過去5回の「口から食べたい」セミナーを重ねて参りましたが、それぞれに講師にまつわる思いがあり、またその度ごとのプロセスを経て成長してきました。

実行委員長 升田 勝喜

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